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伊藤(以下I):「出会ってもうどれくらいになりましたっけ?」
カイシ(以下K):「2004年に恵比寿ガーデンプレイスさんの仕事を始めからなので、7年くらいですかね?」
I: 「YEBISU STYLE(恵比寿ガーデンプレイスが発行しているフリーマガジン)の歴史が僕らの関係値をどんどん密にしていったという感じですよね。」
K: 「そうですね。でも本当の出会いはそれじゃなくて、実はその前に一本お仕事があったんです。僕が独立したての頃にガーデンプレイスさんの大きなイベントのアート•ディレクションをすることになって、ちょっと変わった丸い形のパンフレットを作りたいと思って。その時に現場の人と話したいということで、伊藤さんに来てもらったんですよね?」
I: 「その時はクライアントさんの方から行って来てって言われて、ほとんど初対面でお邪魔したと思うんですけど。」
K: 「あの時は、既にサンプル(ダミー)を現場で試していただいて、その現物と生産するに当たっての検証の予測値を持ってきていただいたんです。」
I: 「大体、複雑なものを作る時にはやっぱりダミーは用意するものだと思ってるんで。」
K: 「その時に実際に現物を持って来てもらえて嬉しかったんですよ。『ここはこういう問題があるな。ここはうまくいきそうだな。』とかっていう色んな情報を持ってきてもらえたことで、すごく判り易かったんです。実際に現物を見て話せたことで、一緒にモノ造りをしているなっていう感覚になって、すごくゾワっと来たのを覚えてます。」
I: 「1個2個モノを造るんだったら、手作りでなんとかなると思うんですよ。でも商業印刷物って量産するものじゃないですか。多くの方が手に取った時にちゃんと形になっているのが大切ですよね。クライアントさんからの依頼を受けてのお仕事だとも思いますし、量産を意識しながら、やりたいことをどれだけ拾ってあげられるか。それが僕の仕事だと思っています。」
K: 「それ以来、伊藤さんには色々とお願いする機会が増えました。最初に挙げたYEBISU STYLEは定例の仕事で、年に4回ご一緒しています。それも6年目に入って、今は24号に着手しようとしてる。随分長いお仕事になってますね。」
I: 「フリーペーパーで輪転印刷立ち会いってあんまりないんですけど(笑)、あれを通じて僕も勉強させていただいてます。輪転には輪転の色の出し方があるなって・・。あのお仕事はこれからも続けていきたいですね。」
I:「最近、カイシさんに、デザイナーさん向けのパンフレットを造って頂きました。素敵なパンフレットをありがとうございます。」
K: 「今回は伊藤さんの想いを僕が形にするというやり方で、最初に伊藤さんからオーダーを頂きました。」
I: 「そうでしたね。クライアントさん向けのものではなくて、作り手さんに向けたメッセージを形にしたい。アイデアはあったんですけど、実際にどんな文章にしたらいいか、インパクトの有るものを作るにはどうしたらいいのかわからなくて。駆け込み寺のようにカイシさんに相談したんですよね。(笑)」
K: 「若いデザイナーの多くが、印刷の現場の方と話さなくなっている。オートメーション化が加速して、一切の言葉の伝達が無くなってしまった。そういうのが気になってたんで、伊藤さんのデザイナーさんと話をしながら作りたいっていう想いには共感する部分があったんです。最初に相談を受けて、色々話を伺った結果、新しい試みって言ったら変ですけど、今回は僕がテキストも全部書かせていただきました。それで伊藤さんに『こういうのがやりたい』って提示して。やっぱりデザイナーに向けて作るパンフレットだからこそ、デザイナーである自分の目線で書くのが一番良いだろうって思ったんです。」
I: 「印刷の単語だったりとか、技術的なことを並べるよりも、現場の動きもわかっているカイシさんにうまく噛み砕いて書いてもらった方が良いと思いました。」
K: 「これってすごく画期的だと思うんですよ。印刷会社のパンフレットってどこの会社案内を見ても、何も大切なことが伝わってこないじゃないですか? イノベーションとかインテグレーションとか、未来へなんとかとか…ああいうのって何が言いたいのかわからないこと多いですよね(笑)」
I: 「当たり前のことだと思うんですよ、ああいうのは。そうじゃなくて、『こういう風に作りたい』っていう気持ちをデザイナーさんと一緒に共有したい、その想いを伝える方が早いかなって。」
K: 「今回は若いデザイナーに向けてのメッセージということもあったので、僕が二十代の頃を思い返して書いた部分もありましたね。もらった人が手元に置いておきたいパンフレットを作りたかったんです。だから、デザイン的にも印刷の加工的にも面白いものにしようと思って。ベテランの方は色んな印刷会社の人から売り込みがあったりして、変わったサンプルなんかも貰ったりするんですけど、独立したてだったり一社員としてやってる人ってなかなか売り込みされることもないじゃないですか? だから、そういう素材とか経験には飢えてると思うんです。今回はコールド•フォイルという今、注目されてる技術を使って作ったんです。コールド•フォイルに関してはネットで調べてもらえればわかると思うんですけど、とにかく今回のデザインはそうとう不真面目ですよね。(笑)普通のクライアントさんなら怒られるけど、伊藤さんならきっと判ってくれると思ったんです。」
I: 「正直、表1に関しては何も口出しする気持ちはなかったですね。」
K:「そして、中面も『』や「。」だけが銀になっているという、おかしな仕上がりになってます。」
I: 「そうですね。中面も『まさにその通り!』って思う内容になっていて、感動して…それに感動するあまりに自分の会社のURLを入れ忘れたっていう落ちも有りました(苦笑)。でも、それぐらい僕の言いたいことを掴んでくれていて、嬉しかったんです。本当にありがとうございました。今回は500冊だけパンフレットを作ったんですけど、僕はとにかく500人のデザイナーさんと話をしようと思って、実際に顔を合わせながら。それがこのパンフの活かし方だと思うんです。」
K:「それは是非、実現してもらいたいですね。ホームページに問い合わせてもらえたら、実際に伊藤さんが行くっていうことになるんでしょうね。若い人で自分であまり面白い仕事ができてないなんて思ってる人に少しでも僕は遊び場を作ってほしいんです。どんな仕事でも工夫する価値ってあると思っています。今はコンピューターの画面上で最終原稿を作って、それで完成と思ってる人もずいぶん多い。でも、本当はそうじゃないんですよね。」
I: 「結局、デザイナーさんからいただいたデータっていうのも、完全に紙と色がマッチするかは僕の領域なんですよね。こういう言い方は失礼かも知れないし、あんまり大っぴらには言えないですけど、実はもらったデータで僕も遊んじゃってるんです。結局やりたいことを紙に落とした時に、皆さんから良い笑顔をもらいたい。だから、そこを工夫するのが僕の仕事なんですよね。打ち合わせ、入稿もメールではなくて、可能な限り会って話しながらやりたいんです。それが僕の基本的なスタンスです。」
K: 「コンピューターの画面の中でデザインしますけど、最終的なものは画面上のものではないんですよね。画面上では再現しきれない、やりたいことや出したいこと、それってやっぱり抽象的な言葉で表現する部分もあると思うんですよ。そこを具体的に紙に落とすっていう時に、やっぱりデータと数字ではわからないことってたくさんあります。大事なのはそこを伝達して共有するということなんですよね。さっき伊藤さんが『話す』ということをキーワードにしてましたけど、メール、データだけのやりとりではなくて、話して相手にしっかりと自分の想いを伝える。そうすることで仕上がりって全く違って来るんですよね。」
I: 「正直言うとプリンティング•ディレクターっていう言葉はカイシさんから言われて、そういう仕事の肩書きを意識するようになったんですよ。だから、僕の中ではプリンティング•ディレクターっていう肩書きはカイシさんに付けてもらったようなものなんですよね。 どうやって工夫して、色を表現するか。そして、今では何千種類もある紙の中から、この色はこの紙に合うとか、そういうデータを取りながらやってるんです。とにかく最終的に形になった時、どういう形で完成させるか。それをデザイナーさんと押し問答しながらやる楽しさがこの仕事の価値だと思っています。」
K: 「僕と伊藤さんとの付き合いはもう長いわけですけど、その中で感じる伊藤さんの良いところってバランス感覚だと思うんです。一つは品質管理のバランス。目立つモノや変わったモノを造る時にはリスクがつきまとうわけですよね?その時に工業製品として、クオリティーを保つこと、事故が起きないようにするためにもある程度のところで制御をしていかないといけない。少しでも事故が起きる可能性があるものは『出来ない』って言っちゃえば早いんですが、伊藤さんはそれをやらない。『やってみましょう。』とも言うけど、最後に『出来ませんでした。』とはならない。この絶妙なバランス感覚っていうのは、意識されてますよね?」
I: 「必然と身に付いていったものでしたね。デザイナーさんもそうだと思うんですけど、やっぱりクライアントさんの喜ぶ顔を見たり、最後に『ありがとう』って言ってもらえた時にその仕事の価値があると思うんです。それを貰うにはどうすればいいんだろう?っていうことを常に考えているからだと思います。」
K: 「もう一つの伊藤さんの素晴らしいところは行程管理ですね。僕たちデザイナーにとっては、お客さんの手元に品物が届くところや使われるところがゴールなんですけど、そのゴールまではデザイナーではケアしきれないじゃないですか?例えば、何日までに何を納品するとか、どこに納品するとか。伊藤さんは納品物の品質について、もう少し大きな部分で、どこに何が行って、どう効能する。そういった部分まで見据えた計画をしていると思うんです。ちゃんと最終目的である納品段階までを見据えて、印刷とかデザインまでフィードバックしてくれるんです。例えば、こういう置かれ方をするからこうした方が良いとか、こういう風に積まれるからここは保護しておいた方がいいとかを意識してらっしゃいますよね。たまにデザインにアドバイスしてもらうこともありますもんね(笑)」
I: 「特にページ物なんていうのは、デザイナーさんはページ単体でしか見ていないじゃないですか? その前後のページはどうなっているか、紙の裏側はどうなっているか。それは僕がアドバイスをしていかないと。流れ作業で点だけを見るのじゃなくて、僕は全体のバランスを見る役割だと思うんですよね。」
K: 「そうですね。後、『校了したら終わり、原稿を受け取るまで何もしない。』っていう、リレーのバトンのような考えの方って多いと思うんです。でも実はそうではない。僕としては誤解を恐れずに言わせてもらうと、伊藤さんとは一緒にデザインをしてるような感覚を覚えるんですよね。」
I: 「たまに僕の言ったことがその通り、反映されてると嬉しいのは嬉しいですね。」
K: 「伊藤さんのアドバイスのままに作ることもよくありますね(笑)。デジタル化で現場の人が活躍するっていう認識も減ってきている部分もあると思うんですよ。片や昔ながらの職人かたぎの人達が技術を守り続けていて、印刷技術においては日本は世界有数の大国です。その良い部分を残していくにはデザイナーと印刷だけでは成立しなくて、プリンティング•ディレクターが重要な役割になってくると思うんですよね。
I:「そこは僕の橋渡しの役割だと思ってます。現場はいつも一生懸命やってるんですよ。でも表立ってデザイナーさんやクライアントさんと直接対話する機会がないですよね。だから、僕が取り次いであげたり、彼らがやりたいことを伝えたりすることで、初めて線として繋がると思うんです。だから、そういう意味ではデザイナーさんと印刷現場の橋渡しですよね。」
I:「最後にカイシさん、自主制作的なスタンスの仕事もあるじゃないですか?それについて聞かせてもらえませんか?」
K: 「やっぱり全部のクライアントさんが潤沢に予算があったりするわけじゃないんです。でも自分がどうしてもこれはやっておきたい、これは必要だろうと思われる部分があって、それは自分で印刷費を一部負担することもあります。その時に、もちろん印刷費は出してるんですけど、伊藤さんにもかなり手弁当に近い形で協力してもらってて。かなりご迷惑はおかけしてると思うんですが(笑)」
I: 「僕の中では年に何回かあるあれが正直なところ一番辛かったり、考えたりさせられます(笑)」
K:「そうですよね(笑)でも、伊藤さんも一緒になってトライ&エラーを繰り返して、遊びに参加するような仕事ですよね。いわば、自分の遊び場を最大限に広げたような仕事だと思ってます。目的の一つは自律的なスタンスでクライアント•ワークで実際に出来なかったことについて実験をするってことなんです。そうすると色んなことがわかるんです。これは失敗した、これはすごくうまくいった、これは思いのほか効果が出なかった、これは他にも応用できる、とか。それをクライアント•ワークに応用して、良い結果を生んだり、逆にリスクを回避することができるんですね。もう一つの理由は、自分がこういうことをやりたいって思った時にやっぱりそういう場がなかったりしますよね? お客さんの理解、予算、タイミング、納期。全ての要素が噛み合ないといけませんから。そういうものを取り除いた形で、自分がすぐにやりたいことを試せるからなんです。」
I:「納期が長いから、長丁場になったりもしますよね。」
K: 「そうですね。つきあわせて申し訳ありませんが、これは自分の中でもドンドン続けていこうと思ってるんです。」
I: 「やっぱりそうですよね(笑)あれを通じて僕も新しいことだったり、色んな楽しみを共有させてもらってます。すごくカイシさんも気持ちが入ってますよね。」
K: 「やっぱりこうやって真剣に遊んでくれる人ってなかなか居ないと思うんですよ。だから、みなさんにもパンフレットやWEBを通じて、気になったこと、印刷で聞きたいことがあれば伊藤さんに気軽に相談して欲しいんです。たまに社交辞令で『気軽に相談して』って言われて、実際に相談したら渋い顔をされたなんてことはありますけど(笑)少なくともサウンドグラフィックスに関してはそれはないですよね。大手の印刷会社では門前払いを食らうような案件でもまずは話してみて下さい。話すのはタダですから。まずはこのメールアドレスに相談したいって送れば伊藤さんは相談に乗ってくれますよ。そこから色々繋がっていくし、将来頼りになるパートナーが増えるきっかけになると思うんです。」
I: 「納得のいくモノを造りたい。それだけですから。どんな些細な相談でも良いので話して下さい。」
K「これから仲間が増えて行きそうで楽しみですね!」
I: 「どんどん輪を広げていきたいと思っています。」
カイシトモヤ(room-composite)
アートディレクター/グラフィックデザイナー 下北沢のグラフィックデザイン会社、room-composite代表。50アーティスト、140枚を超えるCDジャケットのデザイン、広告、ポスター、書籍装丁、フリーマガジンのアートディレクションなどを担当。日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)会員。東京ADC 2010 入選。Graphic Design in Japan 2008/2009/2010 入選(2008/2009新人賞ノミネート)、東京TDC 2009/2010入選。香港国際ポスタートリエンナーレ2010 入選、ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ 22th(2010)入選。APA 2010 金丸重嶺賞。